相続・遺言

遺産分割前に財産が勝手に処分されたら?覚えておきたい基本と対処法

この記事を書いたのは:松波伸一

相続が発生した際、遺産分割協議が整う前に相続人の一人が預貯金を勝手に引き出したり、不動産を処分してしまったりするトラブルが起こることがあります。

本来、遺産分割は分割の時点で現に存在する財産を対象とするのが原則とされています。

そのため、分割前に処分された財産は遺産分割の対象から外れてしまい、処分した人が得をして他の相続人が損をするという不公平が生じやすいという問題がありました。


【勝手な処分に対処する「みなし規定」(民法第906条の2)】

このような不公平を是正するため、民法第906条の2第1項は『遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる』と定めています。

さらに同条第2項は『前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない』と定めています。

この規定により、勝手に財産を処分した相続人以外の共同相続人全員が同意すれば、処分された財産を遺産分割時に存在していたものとして扱い、遺産分割の計算に組み込むことが可能となりました。


【当面の費用が必要な場合の「預貯金の単独払戻し」(民法第909条の2)】

他方で、葬儀費用や当面の生活費の支払いのために、遺産分割前にお金を引き出したいという正当なニーズもあります。

民法第909条の2は『各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる』と定めています。

この制度を利用することで、他の相続人の同意を得なくても一定限度額までは単独で預貯金の払戻しを受けることが認められています。


【関連する裁判例】

〇最高裁(平成28年12月19日大法廷決定)

最高裁は、共同相続された預貯金債権について『共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる。』と判断しました。

→ポイント:預貯金も当然に分割されるわけではなく遺産分割の対象となるため、無断での引き出しは他の相続人との間で紛争の原因となります。


〇大分地裁豊後高田支部(昭和49年1月31日判決)

大分地裁豊後高田支部は、遺産分割前に一部の相続人が特定の財産持分を処分した場合について『共同相続人は遺産分割に際し、これに拘束されない』と判断しました。

→ポイント:一部の相続人が勝手に財産を処分しても、他の相続人はその処分に縛られずに遺産分割を行うことができます。



実務上の注意点とご相談

実務においては、処分した当事者の認定や処分された遺産の使途(自己費消)の認定が困難な場合もあります。

遺産分割前の財産処分や預貯金の引き出しでお困りの際は、無理に当事者間だけで解決しようとせず、弁護士等の専門家へご相談されることをおすすめします。


この記事を書いたのは:
松波伸一